2023年11月14日、一般社団法人デジタルメディア協会(AMD)が主催するシンポジウム「世界のコンテンツ産業支援状況から考える 日本のコンテンツパワーアップへの道」がオンライン開催されました。

本シンポジウムはモデレーターを近畿大学情報学研究所長・特別招聘教授の夏野剛氏が務め、各国のコンテンツ事情に詳しい以下4名のパネリストが登壇しました。
コーエーテクモホールディングス代表取締役社長 襟川 陽一氏
シンガポール経済開発庁 Lionel Lim氏
特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)経営企画部長 山崎 尚樹氏
Netflix ディレクター 杉原 佳尭氏
本稿では、各パネリストによる講演とパネルディスカッション&質疑応答の2部構成で実施された本シンポジウムから、ゲームコンテンツに関連する内容を中心にレポートします。
ゲーム市場は海外が90%を占める状況に
冒頭では夏野氏が「世界のどの大都市にいっても日本の漫画コーナーがあり、アニメがオンラインで見られている。熱狂的なファンが恐らく日本以上にいることを肌身で感じている」と、日本産コンテンツが海外で強い存在感を放っていることを自身の経験に基づいて紹介。また、本シンポジウムでは「政府が産業をリードして進めてきたモデルが現代のコンテンツ産業に則しているのか」という疑問をひとつのテーマとして議論していくことも述べられました。
各パネラーによる報告パートは、『信長の野望』『三國志』シリーズなどのプロデューサー「シブサワ・コウ」としても知られるコーエーテクモホールディングス代表取締役社長 襟川陽一氏による講演「ゲーム開発で経験した各国の支援策」からスタート。コーエーテクモグループは本社こそ横浜に構えているものの、現在は海外でもゲーム開発を行っています。そんな世界的ゲームメーカーであるコーエーテクモの目線から、日本と海外のコンテンツ支援策が比較・紹介されました。
グローバルでのゲームソフト市場規模は、半導体の供給不足による一時的な落ち込みはあったものの右肩上がりで伸びている傾向にあります。コーエーテクモのタイトルで見ても、近年は『仁王』などグローバルでヒットするタイトルが主力となっており、その市場は日本国内が10%程度。残る90%は欧米や中国など海外での売上が占めています。

日本でも研究開発に対する優遇税制や、海外向けのローカライズ&プロモーションへの支援「コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金(J-LOD)」等が存在していますが、コーエーテクモは中国、カナダ、ベトナム、シンガポールなど各国の開発拠点でも支援制度を受けているとのこと。

中国・天津ではソフトウェア制作会社に対する優遇税制がある一方で、カナダでは人件費に対する支援が厚く、コンテンツ開発にかかる費用に対して法人税額から一定の額が控除可能と、その内容は国によってさまざま。シンガポールは開発費に対する資金援助に加えて開発・人材育成への支援制度が手厚く、ここが数多くのコンテンツ会社が集まっている要因なのでは、と襟川氏は分析しました。

報告の最後で襟川氏は「ダイレクトにコンテンツ産業育成を支援する海外の仕組みは非常に有用で、日本でも『コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金(J-LOD)』の仕組みを拡充していくことが強い願い」と述べ、コンテンツが海外に対して引けをとってしまわないように国が予算の割り当てを行うことを要望しました。
海外の情勢に関しては、オンライン参加となったシンガポール経済開発庁(EDB)Lionel Lim氏からシンガポールのコンテンツ産業育成に関する報告も。世界第5位の経済規模を誇るシンガポールは、海外企業にとってアジアへ進出し実績を作るための拠点としても魅力的だといいます。活気あるビジネスと良質な雇用機会による持続可能な経済成長の創出を目的に、国が積極的に多数の支援制度を設けていることから、複数の業界で海外企業が拠点を構えています。
中でもコンテンツ産業はインターネット利用人口が新たに8000万人増加するなど、コロナ禍の影響もあって成長著しい分野。日系企業の支援等もあってシンガポール国内の人材育成も進んでおり「オリジナルのコンテンツが創出され始めている」と、Lim氏は解説しました。

さらにコンテンツ業界全体を支援するNPO法人である映像産業振興機構(VIPO)の山崎尚樹氏からは、J-LOD事業の一環として実施した調査を元に「韓国におけるコンテンツ支援体制と支援策」の報告が行われました。韓国のコンテンツ産業の売上高は約15兆円に上り、産業別の輸出額で見れば半導体や自動車、コンピュータなどの主要産業を追う立場になっていることが紹介されました。
韓国では「文化体育観光部」がコンテンツ産業全般に渡る管理支援を担当しており、その傘下のコンテンツ政策局には映像コンテンツ産業課やゲームコンテンツ産業課が存在しています。また、2009年の文化産業振興基本法の改正により、それまでジャンル別だった振興機関を統合した韓国コンテンツ振興院(KOCCA)が設立。KOCCA内では「ゲーム本部」など各ジャンルごとに部署が分かれており、人材育成やコンテンツ制作の支援予算が組まれていることが大きな特徴となっています。
また映像配信事業者であるNetflixの杉原佳尭氏による報告では「我が国のコンテンツ産業の現状」が確認され、アニメやゲームの領域でコンテンツ産業が伸びている一方、テレビはネットに取って代わられつつある現状を紹介。そこで新しいアクターとして登場したのが配信事業者であり、作品が容易に国境を越えるようになったことで世界的に投資額が増大して競争が激化していると述べました。
また、映像作品がグローバル化して大勢に視聴されるようになったことで大規模な投資が可能になっているものの、日本では小規模な制作会社が多いことから大規模なプロジェクトを受けられない“受け皿不足”の状況が発生していると指摘。作品ごとにチームが編成・解散されるため、ナレッジやノウハウが溜まらないことなどが問題点として挙げられました。

杉原氏は日本市場の特殊性に最適化されてきた環境の抜本的な変革が必要であるとも述べつつ、IPホルダーとハリウッドとの間に入り、シリーズとしてどう成功させていくのかに取り組んだ『ONE PIECE』実写化や、最新技術の導入支援などNetflixとしてのコンテンツ分野への取り組みを紹介しました。
それぞれの報告を受けて各パネリストからはさまざまな感想が述べられ、襟川氏も「そうではないかなと思っていたことが実際にレポートされていた。私たちはゲームだけでなく色々なデジタルコンテンツを通じて世界のユーザーさんに今までにない面白さを提供していきたいと考えている。それをどう国が支援してくださるのかを考えて行く上で参考になった」とコメントしました。
国とジャンルを超え、コンテンツの在り方を考える
ここからはパネルディスカッションのパートへ。
最初の議題として夏野氏から「シンガポールは何故これだけコンテンツの育成に力を入れるのか?」との質問が投げかけられると、Lim氏は「シンガポールは小さい国ながら海外の技術を活用して発達している。コンテンツ分野からオリジナルのものを創出することができれば国全体のPRにも繋がると考えている」と回答。そして、現在は人材の育成に集中していることから「韓国の例を参考に、政策としてのコンテンツ支援を考えなければならない」とも述べました。