『鉄拳』プロデューサーが夢見る、未来の「仮想ゲーセン」―海外戦略も語られた基調講演をレポート【CEDEC2024】 | GameBusiness.jp

『鉄拳』プロデューサーが夢見る、未来の「仮想ゲーセン」―海外戦略も語られた基調講演をレポート【CEDEC2024】

対戦格闘ゲームというジャンルそのものがアーケードでもコンソールでも輝けなかった「暗黒時代」など、原田氏ならではの視点で格闘ゲーム史が振り返られました。

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『鉄拳』プロデューサーが夢見る、未来の「仮想ゲーセン」―海外戦略も語られた基調講演をレポート【CEDEC2024】
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2024年8月21日から23日にかけて、パシフィコ横浜ノースで日本最大級のゲーム開発者向け技術カンファレンス「CEDEC2024」が開催されました。本稿では、バンダイナムコスタジオの原田勝弘氏による基調講演「鉄拳シリーズを通してみた格闘ゲームの変遷とその未来」のハイライトをお届けします。また、本講演はYouTubeでアーカイブが配信されています。

全世界で累計5,800万本を売り上げた『鉄拳』シリーズ

3D対戦格闘ゲーム『鉄拳』は1994年にアーケードゲームとしてリリースされたのが始まりで、全世界でシリーズ累計5,800万本以上を販売しています。

バンダイナムコスタジオの原田勝弘氏

アーケードでリリース後、コンソールに移殖……という流れを長く続けてきましたが、2024年1月26日にリリースされた最新作『鉄拳8』はシリーズ初のコンソール全世界一斉販売となっています。

ナンバリング主要タイトルの実績も紹介され、2005年のPS2『鉄拳5』は約943万本、2017年のPS4/Xbox One/Steam『鉄拳7』は1,200万本販売されていることが明かされました。 また、アーケード版のシェアはアジアと日本が圧倒的ながら、コンソール版は97%が日本以外の国での売り上げとなっているそうです。

原田氏は『鉄拳』プロジェクトの戦略は大きく分けて5つあると語り、そのひとつひとつを振り返りました。

1.テクノロジードリブンな描画手法や3D空間を使った遊びを提案

『鉄拳』シリーズはキャラクターのみならず背景にも力を入れており、3D空間を生かした動きが取り入れられた『鉄拳4』のころからは背景にかかるコストがうなぎ上りに。しかも、近年の作品ではわずかなバトルエリアから奥行きを感じさせるために左右対称ではなく非対称かつ広大なステージが制作されています。

背景の現状は「お金と開発期間がいくらあっても足りない」状態で、AIを活用し、物理演算を含めた構造体として手軽に作れる日が来てほしいと語りました。

2.コミュニティを育て、変化を常に意識する

日本と海外はゲーム業界のヒエラルキーが大きく異なり、欧米ではファンコミュニティが大きな力を持ちます。

ユーザーによる集団訴訟やSNSでのよくない評判をメディアが広めると、ディストリビューターがパブリッシャーが及び腰になり、パブリッシャーにマークダウン(値下げ)を要求することも。海外では小売りに返品制度があるため、そうなるとパブリッシャーは要求を飲まざるを得なくなります。

『鉄拳』プロジェクトはこうした欧米型業界ヒエラルキーを早くから認識していたため、20年以上前から原田氏ら開発スタッフが海外に直接足を運び、コツコツとコミュニティを形成。当時は数十人程度だったコミュニティが、今ではeスポーツの隆盛も手伝って数千人以上を集めるほどになりました。

3.ビジネスモデルの変革と価値の変化に合わせたコンテンツを作る

1990年代後半から欧州・北米でゲームセンターが急速に衰退。しかし、2000年から2010年頃まではコンソールゲームのオンライン機能がまだ限定的で、オンライン対戦機能はまだ一般的ではありませんでした。アーケードが衰退していくのに、コンソールはまだアーケードに追いつけていない「暗黒時代」に、多くの対戦格闘ゲームシリーズが途絶えました。

『鉄拳』シリーズは、コンソールに移植する際にさまざまなミニゲームやゲームモードを追加。1回100円という「アーケードゲームの1プレイ」と、ソフトを買えばあとは遊び放題となる「コンソールゲームの1プレイ」は価値が異なることを見据え、パッケージビジネスにシフトしたことで『鉄拳』は暗黒時代を乗り切ることができたそうです。

4.「多国」「多地域」「多思想」にターゲットする

グローバルに売れているシリーズだけに、新たなキャラクターを生み出すときは、“アニメ好き”などの地域性や国境を越えた共通の嗜好・特徴などを持つ「層」、特定の地域や国を指す「域」、どちらにもあてはまる「複合(的)」のうち、どれに訴求するのかを熟考。日本人がパッと見てどの層に狙っているのかピンと来ないキャラでも、ターゲットした特定の層や域にはきちんと訴求できている、ということもあるようです。

5.「クリエイティブを届ける=パブリッシング&マーケティング」を意識する

海外では、起きた騒動に対して「沈黙を守るのが正解」という態度で接する日本の価値観が悪手になる場合があり、かえってゲームファンの信頼を失いかねません。そういうときに矢面に建てるスポークスマンがいることはとても大きな意味を持ちます。

また「ゲームはおもしろければ売れる」はあくまで幻想であると指摘。おもしろいゲームであること、システムが優れていることなどは売れるための前提に過ぎず、売上はそこからのパブリッシングやマーケティングで差が出るとしました。そういう面でも、スポークスマンの存在は大切です。

原田氏が思い描く対戦格闘ゲームの未来

『鉄拳』プロジェクトの軌跡を軸にした格闘ゲームの歴史をふりかえったうえで、原田氏は対戦格闘ゲームの未来を3つの視点から描き出しました。

ゲームの垣根を越えたコミュニティ形成

原田氏は「オンラインロビーやラウンジ機能はやっつけで用意できるものではないので、今日の対戦格闘ゲームがこぞってそうした機能を搭載しているのは偶然ではない」と分析。願望を含めての話だと前置きしつつ、将来的にはさまざまなメーカーの対戦格闘ゲームを横断する「マルチバース仮想ゲーセン」になってほしいとしました。

まったく新たな形の対戦格闘ゲームの登場

現在のeスポーツシーンを代表する対戦格闘ゲームは、すべて90年代に生まれています。もし今の自分が完全新作の対戦格闘ゲームを手がけるなら、『鉄拳』とはまったく異なるゲームにするだろうと述べ、当時を体感していない20代の若い人たちが将来新たな形の対戦格闘ゲームを生み出してくれることに期待を寄せました。

AIがベストパートナーとなりうる未来

対戦格闘ゲームの楽しさは、究極的には「自分と同じくらいの腕前を持つ誰かと常に競い合い、成長し続けられること」。原田氏は昨今のAIの発展を鑑み、もしかしたらそれを満たすライバルは人間ではなく、AIとなる日がくるかもしれないと予測しました。


対戦格闘ゲームのありうるかもしれない未来を提示した原田氏は最後に「僕らの世代は、定年まであと10年もありません。今後の対戦格闘ゲームの発展を願いつつ、もうちょっとがんばろうと思います」と語り、基調講演をまとめました。

《蚩尤》

汎用性あるザク系ライター(が目標) 蚩尤

1979年生まれのファミコン直撃世代。スマホゲームもインディーズも大型タイトルも遊びますが、自分と組ませてしまって申し訳ないという気持ちやエイミングのドヘタさなどからチーム制のPvPやFPS、バトロワが不得手です。寄る年波…! ゲームの紹介記事に企画記事・ビジネス寄りの記事のほか、アニメなど他業種の記事もやれそうだと判断した案件はなんでも請けています。任天堂『ガールズモード』シリーズの新作待機勢。

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