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ディー・エヌ・エーが事業方針の見直しを迫られています。
2024年3月期第3四半期累計期間(2023年4月1日~2023年12月31日)に276億2,600万円の営業損失(前年同期は50億5,600万円の営業利益)を計上したのです。2024年3月期通期は営業赤字での着地がほぼ確実なものとなりました。
赤字となったのは、買収した米ゲーム会社ngmocoの巨額減損損失を計上した2020年3月期以来、4期ぶり。今期の赤字要因はVTuberプラットフォーム「IRIAM」の影響が大きく、ディー・エヌ・エーの成長の原動力となっているM&Aのリスクの高さが露呈しました。
スタートアップ界で大いに話題となった120億円の大型買収
ディー・エヌ・エーの2024年3月期第3四半期の売上高(累計)は、前期比2.7%増の1,041億4,900万円でした。スポーツ事業が26%、ヘルスケア・メディカル事業が73%の増収となり、会社全体の売上増に貢献。しかし、主力のエンターテインメント領域が冴えません。ゲーム事業とライブストリーミング事業の2つを合わせたエンターテインメント領域の売上収益は、前年同期間比6.4%減の717億円、営業利益は同86.3%減の7億円でした。
IRIAMやPocochaを運営するライブストリーミング事業は、売上収益が前年同期間比9.3%増の326億円、事業利益は3億6900万円(前年同期間は4億8700万円の事業損失)に。1割増収となり、黒字転換を果たしました。
しかし、黒字化しているのは国内のPocochaだけ。IRIAMは依然として四半期単体で2億円から4億円程度の赤字を出しています。
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※決算説明資料より
ディー・エヌ・エーがIRIAMの買収を決めたのが2021年7月。現在、パチンコ・パチスロ業界の攻略情報を提供するZIZAIからの取得でした。このころは、ANYCOLORの「にじさんじ」やカバーの「ホロライブプロダクション」の人気が確実なものとなり、ライブ配信アプリのユーザー拡大も決定的になっていたタイミング。VTuberとライブ配信を組み合わせたIRIAMの買収は、スタートアップの中でも特に注目を集めるものでした。買収額が120億円と超大型のものだったためです。
減損損失を計上しても黒字化しやすくなったわけではなく…
しかし、高値掴みだった印象は否めません。IRIAMの純資産は10億円程度。単純計算で110億円近いのれんが積まれる計算になります。しかも、売上高1.6億円に対して1億円近い営業損失を出している状態でした。
■買収当時のIRIAMの財務状況
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※「株式会社 IRIAM の株式の取得(連結子会社化)に関するお知らせ」より
現在、IRIAMは通期で50億円を超える売上規模に成長はしているものの、10億円以上の赤字を出しています。
ディー・エヌ・エーは2024年3月期第3四半期にIRIAMののれん89億円の減損損失を計上。買収して生じたのれんの大部分を減価しました。
この減損損失のポイントは、今後のれんの償却負担が減ってIRIAMの黒字化が近づいたわけではないこと。ディー・エヌ・エーはIFRSという国際会計基準を採用しているからです。
IFRSは日本の会計基準と違い、のれんの償却を行いません。定期的に減損テストを行い、収益性が計画を下回って減価する必要があると判断されると、その都度減損損失を計上するルールなのです。
IRIAMがプラットフォームとして稼ぐ力を高め、サービス単体で黒字化するまでにはもう少し時間がかかるでしょう。
気がかりなのは、ライブストリーミング事業を支えているPocochaの伸び悩みが鮮明になっていることです。巣ごもり特需が起こった2022年に課金ユニークユーザーが過去最高を記録したものの、そこからは横ばいが続いています。
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※決算説明資料より
しかも、Pocochaはアメリカでのサービスを2024年2月に打ち切っています。国内のPocochaは成長限界が見え始め、ライブストリーミング事業の成長はIRIAMに託されました。
中国政府が脱ゲーム依存を積極化
ゲーム事業も厳しい戦いを強いられています。
四半期単体で300億円を超えていた売上収益は、2024年3月期に入って200億円台前半まで縮小しました。今期の3Q単体では2億円の赤字に陥っています。
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※決算説明資料より
不調の要因は、中国と日本にあるといえます。