ゲームソフトの企画・制作受託の大手トーセが、4月11日に2023年8月期（2023年9月1日～2024年8月31日）通期業績の下方修正を発表しました。
売上高を予想比8.0%減の55億2,000万円、営業利益を同96.4%減の2,000万円にそれぞれ引き下げました。もともとは増収増益の予想を出していましたが、減収・大幅減益で着地する見込みです。
期末配当の予想は据え置いたものの、業績下方修正の経営責任を明確にするとし、監査役と社外取締役を除く取締役3名の報酬を5か月間に渡って30%減額することを明らかにしました。
トーセは『ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅』などの大型タイトルの開発に強みを持っていますが、既存のビジネスモデルが限界に達し、停滞感が漂っています。
上半期は5億円近い営業赤字で折り返し
2024年8月期の売上高は前期比4.5%減、営業利益は同95.9%減で着地する見込みです。営業利益率は8.4%から0.4%まで低下。長らく5～8%程度を維持していましたが、突如として赤字ギリギリの水準まで低下しました。
※決算短信より筆者作成
2024年8月期第2四半期（2023年9月1日～2024年2月29日）累計の売上高は、前年同期間比33.7%減の20億1,300万円、4億5,900万円の営業損失（前年同期間は2億5,800万円の営業利益）となりました。上半期は3割の減収、5億円近い営業赤字を出しています。
家庭用ゲーム機向けソフト開発案件において、終盤になって開発要件が大幅に増加。作業量が急増して多額のコストを計上しました。この案件はスケジュール通りにリリースされる見込みですが、第2四半期までに売上計上ができていません。
また、モバイルゲームコンテンツの開発案件においてサーバーを増強する必要性が生じ、手戻りも出たことからコスト負担が増えました。この案件はスケジュールが遅延しており、他の案件への着手が遅れています。そのため、開発業務の一部が来期（2025年8月期）にずれ込む見通しとなりました。
これらが減収減益となった主要因です。
これだけを見ると、一過性の特殊要因のようにも見え、2025年8月期からの業績には大きな影響はないようにも見えます。しかしながら、開発終盤になって開発要件が大幅に増加していることや、サーバーの増強が必要になっていることは、ゲーム開発が大型化・長期化しているというゲーム業界の潮流がそもそもの問題。ゲームに対するユーザーの期待感は高まっているため、顧客（トーセの発注元）の要望が増えるのは当然でしょう。
すなわち、トーセのような開発会社は、これまで以上に契約内容や要件定義、プロジェクト管理、開発進行の難易度が増していることになります。経営陣は通期業績の下方修正に対する責任を役員報酬の減額という形でとっていますが、経営体制を改めることも視野に入れる必要が生じているように見えます。これまでの常識（ビジネスモデル）が通じなくなっているからです。
大手を中心にゲームタイトルや開発体制を改める動きが加速
トーセの大得意先であるスクウェア・エニックス・ホールディングスは、2024年2月5日の決算説明会にてタイトルの品質向上を目的とした開発体制の見直しを行うと発表しました。2023年6月に就任した桐生隆司社長は、ゲームの質や利益率改善を図るべく、外部委託開発を減らしてゲーム開発の内製化を進める意向を示しています。パイプラインそのものも見直し、ゼロベースでベストな体制を見極めていると話しました。
春には具体的な内容を発表するとしていたため、通期業績を発表する5月13日には明らかになるでしょう。
スクウェア・エニックスは2024年3月期第3四半期（2023年4月1日～2023年12月31日）累計はかろうじて増収となったものの、営業減益となっていました。ゲームを手がけるデジタルエンタテインメント事業に限ると、減収減益という厳しい結果に。『FINAL FANTASY XVI』、『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』、そしてトーセが開発した『ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅』という新作をリリースしてさえ減収だったのです。
タイトルや開発体制の見直しを図ったのは、スクウェア・エニックスだけではありません。バンダイナムコグループも同様です。
