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ハイパーカジュアルゲームなど、新しいマネタイズ手法とゲーム性をもったモバイルゲームが市場の注目を集める中、アプリ内課金(以下、IAP)とFacebook Audience Networkのアプリ内広告を組み合わせたハイブリッドな新マネタイズ手法も確立しつつあります。
単に収益性を向上するだけでなく、意外なことにユーザーの継続率向上にも繋がっていると語るのはLINEでゲーム事業部広告ビジネスのマネージャーを務める田中章裕氏です。LINE GAMEでどのような手法が採用されているのか、どのようにIAPとアプリ内を組み合わせることでUXを損ねずに継続率向上に繋げることができたのか、最新の事例について伺いました。
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Facebook Audience Networkについて
Facebook Audience Networkとは、広告主のFacebookやInstagramキャンペーンを、数千に上る世界中の質の高いアプリに配信可能なアドネットワーク。アプリのデベロッパーは、ユーザー獲得(アプリのインストール)のために広告出稿するだけでなく、パブリッシャーとして広告を掲載することでマネタイズも同時に可能になる。Facebookのターゲティングと収益化機能を効果的に活用することで、パブリッシャーはユーザーのエンゲージメントを高め、競争力のあるCPMを通じてポジティブな効果を得ることができる。先日GameBusiness.jpで掲載した芸者東京のインタビューでもお伝えしたように高い収益性が本ネットワークの魅力だ。(2018年にパブリッシャーに支払われた収益は約15億ドルを記録)*1*1 2018年1月-12月 Facebook調べ
Facebook Audience Networkの詳細はこちら
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――改めてLINE GAMEの現在の規模やこれまでの展開について教えてください。
田中氏(以下、敬称略) LINEは2012年にLINEのコミュニケーションアプリを通じた膨大なユーザー層を活用してモバイルゲーム市場に参入しました。日本に本社がありますが、LINE GAMEはグローバルにゲームを展開しており、複数の国にローカライズしています。アジアでは、LINEが普及している日本、台湾、タイ、インドネシアの4つの市場に注力しています。現在では、全世界でのダウンロード数は8億8,000万回を超えるほどに成長しました。
なお、当社のポートフォリオには、カジュアルなパズルゲームから中堅・ハードコアなバトルゲームまで、様々な層に向けたモバイルゲームが含まれています。ミドルコア向けゲームを除いては、ゲームデザインする際に、LINE GAMEのユーザーに何が合うかを常に考え、それぞれのニーズに応えるゲームをリリースすることで事業の成功につながっていると考えています。
――これまで各ゲームのマネタイズはどのように行われていましたか?
田中IAPが中心です。各タイトルで違いはありますが、具体的にはゲームを有利に進める上でのアイテムやコインなどの販売やキャラクターや武器などの販売やガチャ、ステージ進行のゲーム内コインの購入などがメインとなっています。
――今後の展開を考えるうえで課題に感じていたことはあったのでしょうか?
田中やはり非課金ユーザーをどうマネタイズするのか、ということは課題としてありましたね。F2Pタイトルだと、やはりプロモーションをして獲得した大半のユーザーが非課金ユーザーになると思います。とはいえ、大事なユーザーですし、いかにプレイする意欲を削がずにマネタイズしていくか新しい戦略を模索していました。
――そうした課題を解決するためにゲーム内広告にチャレンジしたと。
田中そうですね。第一に弊社の強みであるカジュアルゲームとの相性が良いだろうと考えたこと。また、昨今ハイパーカジュアルゲームが市場のプレゼンスを高めてきており、ユーザーのゲーム内広告への抵抗感も薄れてきていると考えたからです。
――そこでFacebook Audience Networkを活用したのですね。まず導入の決め手を教えてください。
田中プロモーションチームの意見や、AppsFlyerさんのランキングを参考にしました。出稿側のパワーランキングかと思いますが、様々な地域・カテゴリでNo1を獲得させていますし、普段プロモーションでも活用し効果を実感しているネットワークだったので、マネタイズでも高い成果をあげてくれるのではないかと期待し、利用することにしました。
――具体的にはどのタイトルで効果が出ているのでしょうか?また、取り組んでいる施策についても教えてください。
田中現在『LINEシェフ』での導入が非常に高い成果を上げています。具体的にはメールボックスでのリワード配布、デイリーミッションでの広告視聴、プレイチケットが不足しているユーザーへ広告視聴の訴求などです。基本的にはいずれも動画リワード広告を利用しています。
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――やはりIAPとのカニバリゼーションや、ユーザーの離脱など、導入にあたっての懸念はなかったのでしょうか?
田中最大の懸念はご指摘のとおりで、IAPが減少しないかということでした。他にもユーザーの広告に対する不信感、さらにはゲームやIPのブランドイメージを低下させるような広告が流れないかも心配でしたね。
――そうした懸念に対して、どのような対策を講じましたか?
田中対策としてリワードについては、課金して直接得られるものにしないなど、価値はあるがIAPへの影響が少ないものにし、時間制限を設けたり、無料のガチャ形式にしたりするなど仕組みを工夫しました。
また、ユーザーに不信感を与えず、離脱を防ぐためにプレースメントやフリークエンシーの数を制限しています。急に多くの広告がゲームで流れ出すとこれまで楽しんでいたお客様の体験を阻害する恐れがあるので、ユーザー体験に影響が出ない数や場所を選びました。さらにFANでは細かな広告の設定も可能なので、ブロック機能やレビューセンターを使って、競合のリストを作り競合他社の広告が表示されないようにしたり、モニタリングチームを作って不適切な広告は流れたりしないような対策も講じています。
――――実際のユーザーの反応や数値の変化はありましたか?
田中もちろん非課金ユーザーをマネタイズできたことも大きいのですが、リテンションに成功したことは非常に驚きがあり、アプリ内広告を導入した大きな成果だと感じています。具体的には、広告を視聴したユーザーと視聴していないユーザーを比較したところ、新規ユーザーとリピーターユーザーの定着率に150%の差が出たことです。広告を見たユーザーの定着率が非常に高く、その差は時間の経過とともに指数関数的に増加していきました。コロナ禍でゲームのプレイ時間は増加していますが、それ以前の指標と比較しても、プレイ時間が大幅に増加しているので、これは導入の結果だと考えています。
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――マネタイズも成功しているのでしょうか?
田中当初の狙い通り、非課金ユーザーから収益を獲得できるようになったことは非常に大きなことですね。これまではコストをかけて獲得しても売上に繋がらなかったユーザーからも収益を得られているので、非常にメリットを感じています。
――FANを導入してマネタイズもうまくいっていると。
田中そもそも広告収益はインプレッションとeCPMの掛け合わせで計算できます。IAPはしないユーザーであっても毎日ゲームを遊んで膨大なインプレッションを生み出してくれていれば、アプリ内広告をうまく活用することで収益の幅を広げるポテンシャルを秘めているわけですね。
一方、パブリッシャーやデベロッパーがコントロールしづらいeCPMはネットワークの依存するものです。その点FANはeCPMも他のネットワークと比較して高いですし、在庫も豊富でフィルレートも高いので非常に貢献してくれています。
また、海外に強いのも特徴で、先ほどもお話した我々の注力地域である台湾やタイのユーザーからのマネタイズでも高いパフォーマンスを発揮してくれています。ここは他のアドネットワークにない強みといえるでしょう。
――開発面で導入に対する障壁はありませんでしたか?
田中広告のSDKやフォーマットの実装は簡単なコードを書くだけなので、実装自体はそれほど難しいことはありませんでした。ただし、メディエーションで複数のネットワークを実装するので、QAに工数を割きましたね。
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――アプリ内広告の有用性を伺ってきたわけですが、LINE GAMEで当初あった懸念を抱くパブリッシャーやデベロッパーも少なくなさそうです。どういった施策を行えばいいかアドバイスはありますか?
田中日々模索中ではありますが、広告を視聴することを日常化させることが大事だと思っています。
設置場所は、ユーザーのゲーム内のプレイ習慣に沿った場所に置くことで、余計な行動をユーザーがとらなくてすみますし、視聴するまでのタップ数なども減るため、突然広告がゲーム内に導入をされてもユーザーは違和感を覚えず、ユーザーエクスペリエンスを損なう危険性は低いと思います。
また、IAPがメインのゲームでは直接課金して獲得できる通貨やコインをリワードにするのは極力避けたほうがいいでしょう。我々もゲーム進行に有利になるもの、アシストするものを中心にすることでIAPへの影響を減らすことができました。
ただし直接課金して獲得できる通貨やコインもユーザーにとっては魅力的な商品なので、ガチャなどランダム配布をしてユーザーが広告視聴をメリットがあると認識してくれる工夫は必要ですね。
――やはりIAPは今後の大きなキーとなるのでしょうか。
田中アプリ内広告は非常に大きなメリットになりえると思います。特にユーザーの継続率やセッション回数、プレイ時間などユーザー獲得後に課題を抱えている方々は導入すべきではないでしょうか。
工夫をすればIAPへのマイナスの影響はあまりありませんし、むしろこれまで獲得できなかった層から収益を得られるので事業的にもプラスになると思います。
――最後に今後のLINE GAMEの展望について教えてください。
田中これまでもカジュアル・ミッドコア・チャネリングのタイトルを展開し、LINE GAMEが得意とするものは何かを常に考えながら、ヒットするタイトルを出してきました。これからも、LINE GAMEとしてユーザーにゲームを提供する幅を広げながら、LINEの強みであるリアルソーシャルグラフを活用したデータ連携などを通して、送客から集客までできる仕組みを作り、自社タイトルだけでなく、多くのゲーム開発会社にも活用していただくことで、ゲーム市場の活性化に繋げていきたいと考えています。
――ありがとうございました!
ユーザー獲得、マネタイズ、そしてリテンションと、市場が成熟を迎えるなかで変化を迫られるモバイルゲーム市場。アプリ内課金×アプリ内広告というハイブリッドな手法は、マネタイズに寄与することは想像に難くありませんが、ユーザーのリテンションにも大きな効果が出ているとのこと。
実際、インタビューでも普通であれば嫌厭されそうな広告接触ユーザーの方が継続率が向上しているという驚くべき結果も聞くことができました。適切な広告をUXを阻害せずに配置することで、ユーザーのリテンションを図り、FANという収益性に優れたアドネットワークを活用することで、苛烈極めるモバイルゲーム市場でも新たな一手を打てるかもしれません。
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