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グリーの戦略が曲がり角を迎えています。
『CLANNAD』や『AIR』、『リトルバスターズ!』、『Angel Beats!』などの人気コンテンツを手掛けた麻枝准氏がシナリオを手掛ける大作『ヘブンバーンズレッド』を2022年2月にリリース。配信3日で100万ダウンロードを突破するなどヒット作となったものの、その人気が長期化することなく、グリーの業績を支えるゲーム事業の売上高は縮小を続けています。
また、グリーはアバターで配信ができるサービス『REALITY』を提供していましたが、2023年からはその派生形としてVTuber事務所「FIRST STAGE PRODUCTION」を立ち上げました。
この領域を統括するメタバース事業は赤字先行で投資を強化しています。
『まおりゅう』『へブバン』が大ヒットするが……
グリーの2023年6月期(2022年7月1日~2023年6月30日)の売上高は前期比0.7%増の754億円で横這い。営業利益は8.7%増の124億円でした。
グリーはベンチャーキャピタルを通して数々のスタートアップに出資をしており、2023年6月期は保有株式の一部売却によって「投資・インキュベーション事業」の営業利益が前年同期比233.1%増の58億円となりました。全体で1割近い増益になっているのはそのため。主力のゲーム事業を含むインターネット・エンタメ事業の営業利益は前期比32.0%減の66億円でした。
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※決算短信より
グリーは最盛期の売上高が1,500億円を超えていましたが、コンプガチャ規制の煽りを受けて急速に縮小しました。2021年6月期に売上高は500億円台まで落ち込みます。しかし、2022年6月期に売上高は前期比32.0%増の749億円まで回復しました。
※グリーは2022年6月期に投資事業などで会計方針を一部変更しており、2021年6月期との業績は単純比較はできません。しかし、グリーが2022年6月期に業績が急回復しているのは会計方針の転換だけでなく、ヒットゲームが誕生したことが背景にあります。そのため、ここでは方針転換前と後とで数字を比較しています。
営業利益率は2021年6月期の9.5%から2022年6月期に15.3%まで上昇しました。
2022年6月期(2021年7月1日~2022年6月30日)は2つのヒット作に恵まれました。1つは2021年10月28日にリリースした『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚(まおりゅう)』。もう1つは2022年2月10日リリースの『ヘブンバーンズレッド(へブバン)』です。どちらもグリーの完全子会社WFS(ゲームブランド「Wright Flyer Studios」)が開発を行っています。
2つのゲームが業績にいかなる貢献をしたのかは、ゲーム事業の四半期ごとの売上推移を見ると分かります。2022年6月期2Q(2021年10月1日~12月31日)の売上高は191.4億円。3Q(2022年1月1日~3月31日)、4Q(2022年4月1日~6月30日)は200億円台で推移しています。
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※決算説明資料より
しかし、その勢いが長続きすることはなく、2023年6月期に入ると100億円台前半まで落ち込みました。『ヘブバン』の1周年記念を迎えた3Q(2023年1月1日~3月31日)の売上高も158.5億円で力がありません。
1周年記念の広告宣伝費は前年の2.6倍
『ヘブバン』は2022年2月から香港、台湾でもリリースしています。国内では『Angel Beats!』との期間限定コラボイベントの開催、テレビCMの放送など大々的なキャンペーン、イベントを行いました。
2023年6月期3Qは、広告宣伝費に30.8億円を投じました。これは前年同期間の2.6倍もの金額。しかし、ゲーム事業の売上高は2割以上縮小しています。
グリーは2023年6月期第4四半期決算説明会において、株主から「スマートフォンゲームに対する市場認識」について問われ、「開発プロジェクトの大規模化により、利益を出しづらい市場構造になってきているという認識です」と答えています。『ヘブンバーンズレッド』のような大作を開発し、ヒットを飛ばしてもそれが長続きすることなく、かつてのように中長期的な利益に結びつきづらいことが、この発言の背景にあると考えられます。
グリーは現在、4本のゲーム開発を自社で進めています。しかし、ヒットを予感させるような大作の発表はしていません。