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ゲーム業界の印象的な5つのトピックスで、2023年を振り返ります。業績やビジネスモデル、話題性・インパクトの大きかったものをピックアップ。どれも業界の新たな方向性を示しているように見えます。
取り上げるのは以下の5つです。
【任天堂】Nintendo Switchの長寿命化
【マイクロソフト】アクティビジョン・ブリザード買収完了
【ネクソン】2年前にリリースした『ブルーアーカイブ』の大ヒット
【カバー】「ホロライブプロダクション」のカバーが新規上場
【スクウェア・エニックス】インサイダー取引で元社員に有罪判決
ゼルダの伝説と映画スーパーマリオが大ヒットした任天堂
2023年は任天堂にとって歴史的な年になったと言えるでしょう。2023年5月12日にリリースした『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』は、発売からたった3日で1,000万本を突破。「最も早く売れた任天堂ゲーム」としてギネス記録に認定されました。9月末で1,950万本を超えています。
前作の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は3,115万本を超えるロングセラータイトルになっていました。『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』も記録的なヒットとなったことで、『ゼルダの伝説』が任天堂を代表する強力なIPとして確固たる地位を築いたことを印象づけました。
更に映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は興行収入が累計13億6,125万ドル、観客動員数は1億6,984万人の大ヒット。ゲームファンのみならず、幅広い世代にマリオが親しまれていることを証明しました。
同作の日本での興行収入は140億円を超えています。この数字はスタジオジブリの「君たちはどう生きるか」(86.4億円)を上回るものであり、2022年に公開された「すずめの戸締り」(149.4億円)に匹敵するもの。改めて、マリオが国民的なキャラクターに育っていることを見せつけました。
任天堂は2023年11月7日に通期業績の上方修正を発表。売上高を従来予想比9.0%増の1兆5,800億円、営業利益を同11.1%増の5,000億円に改めました。
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※決算短信より筆者作成
Nintendo Switchが発売されたのは、2017年3月3日。発売から7年が経過しようとしています。しかし、任天堂の売上高の勢いは衰えていません。映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」を公開した2023年のスーパーマリオ関連のゲームは、2022年と比較して1.3倍に増えたことが分かっています。
任天堂はIPの長寿化や活用範囲を広げ、結果としてNintendo Switchやゲームソフトなどの中核サービスに触れる機会を増やす戦略をとっていました。2021年にユニバーサル・スタジオ・ジャパンで、2023年2月にはユニバーサル・スタジオ・ハリウッドでもオープンした「スーパー・ニンテンドー・ワールド」や、映画の公開はまさにその戦術に該当するもの。その結果としてNintendo Switchを旬な状態に保てているのです。
任天堂はゲーム機を発売した直後に売上高の大きな山を作り、2年程度でピークに達した後しばらくは減収に悩まされるという最大の経営課題がありましたが、2023年はそれを打破して底力を見せつけました。
11月には映画「ゼルダの伝説」の企画を立ち上げたことも発表。任天堂が新たな局面に入ったことを示しました。
マイクロソフトはなぜアクティビジョンを買収したのか?
マイクロソフトは2023年10月13日にアクティビジョン・ブリザードの買収が完了したと発表しました。2022年1月に買収すると発表していたものの、反トラスト法(独占禁止法)上の懸念があるとして、連邦取引委員会が一時差し止めを求めていました。
懸念されていたのは、Xboxで人気ゲーム『Call of Duty』シリーズを独占すること。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、ソフトウェアはできるだけ多くのプラットフォームで提供するとの考えを示していました。
独占禁止法に触れる恐れはないと判断されたことからも、『Call of Duty』がPlayStationなどで遊べないという懸案事項は払拭されたことになります。
アクティビジョンの買収は4つの目的があると見られています。
ゲーム事業の規模拡大
モバイルゲームの成長
メタバースの拡大
人気IPの獲得
アクティビジョン・ブリザードの2022年の売上高は75億2,800万ドルでした。1ドル140円換算で売上高は軽く1兆円を超えます。マイクロソフトは売上高2000億ドルを超える巨大企業で、アクティビジョン・ブリザード完全子会社化による業績へのインパクトはわずか。しかし、売上高の多くはクラウドサービスが占めており、ゲームの比率は高くありません。
アクティビジョン・ブリザードを買収することにより、任天堂やソニー、テンセントなどと肩を並べる規模になります。
アクティビジョン・ブリザードが『キャンディークラッシュ』の制作スタジオであるキングを持っていることも大きかったでしょう。世界的にゲームはモバイルにシフトしているためです。マイクロソフトは、モバイルゲームに注力していくことも明らかにしています。
追加したストーリーが話題となった『ブルーアーカイブ』
2021年2月4日にリリースされた『ブルーアーカイブ』が2年の時を経てヒットするという異例の出来事がありました。過疎化したゲームは早期終了の憂き目を見るという常識を塗り替えました。
ネクソンの2023年7-9月の日本事業の売上高は、31億3,200万円。前年同期間を12.2%上回りました。運営するネクソンは、『ブルーアーカイブ』が大幅に成長し、「当社業績予想を上回った」と説明。経営陣にとっても予想外の出来事でした。
■ネクソン日本事業売上高推移
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※決算説明資料より
『ブルーアーカイブ』は2022年に「エデン条約編」を追加しました。このストーリーが面白いとゲームファンの間で評判が広がります。しかし、その年の10月に開催されたイベントで不具合が発生。これに対し、統括プロデューサーが長文で謝罪し、想定を超える無償補填を行いました。これがあまりに大量だったため、「やけくそ補填」と呼ばれて大きな話題になりました。
やがて評判が広がり、2023年に異例のヒットとなりました。
このゲームはキャラクターやストーリーの作りこみが優れており、ヒットするポテンシャルは持っていました。意図せずそれが表出する結果となったのです。
再現性は低いものの、マーケティングにおける事例を一つ作ったのは事実です。
売上高は3割増のハイペースで成長するカバー
『ホロライブ』のカバーが2023年3月27日に新規上場しました。公募価格は750円。初値は公募価格を33.3%上回る1,750円でした。2023年12月26日の終値は2,636円。VTuberという業界が市場から注目されていることを示しています。
カバーは2024年3月期(2023年4月1日~2024年3月31日)の売上高を前期比29.9%増の265億6,200万円、営業利益を同36.1%増の46億5,000万円と予想しています。営業利益率は17.5%。力強く成長しています。
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※決算短信より筆者作成
カバーは配信やライブの売上構成比率が多くを占めているため、ANYCOLOR(営業利益率38.5%)と比較して利益率が低いという弱点があります。この課題をいかにして克服するかが、今後の焦点となるでしょう。
VTuberのマネジメント事務所は、業績が悪化して2億円近い営業損失を出したUUUMなどと比較すると高い成長性を感じさせます。VTuberはサブカルチャーの側面が強い領域ですが、YouTuberよりも成長性を秘めていることが明らかになりました。
インサイダー取引の追徴金は1億7,000万円
スクウェア・エニックスの元社員が2023年7月7日、金融商品取引法違反で懲役2年6か月、執行猶予4年、罰金200万円、追徴金約1億7,122万円の有罪を言い渡されました。判決では「世界的に有名なゲーム開発者として、与えられた権限を利用して得た情報で株を買い付けた」とし、約2,300万円の利益を得たと述べました。
この事件は、エイチームと共同で開発していた『ファイナルファンタジーⅦ ザ ファーストソルジャー』や、Aimingの『ドラゴンクエストタクト』の業務提携が発表される前に株式を購入。利益を得たとされていました。
ゲーム業界では、ビッグタイトルの共同開発が発表されると、開発会社の株価が急騰する現象はよく知られています。それを逆手にとった事件でした。その代償はあまりに大きかったと言わざるを得ません。